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静岡地方裁判所浜松支部 昭和38年(わ)301号 判決 1964年3月27日

被告人 S(大一四・二・一五生)

Y(昭一九・五・二一生)

主文

被告人Sを無期懲役に処する。

被告人Yを無期懲役に処する。

押収してある拳銃一丁(昭和三九年押第一号の6)、空薬莢、弾頭を削つた実弾各一個(同押号の7)、空薬莢二個(同押号の8)、弾丸三個、同破片二個(同押号の11)、弾丸破片三個(同押号の12)、弾丸破片三個(同押号の13)は被告人Sに対し、これを没収する。

押収してあるスコップ一丁(昭和三九年押第一号の1)は、被害者宮○槇に還付する。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人Sは、博徒○○家△△町一家の構成員であり、被告人Yはその配下に属するものであるが、両名は共謀のうえ、

(一)  昭和三八年○○月○○日午後九時頃、暴力団組織に基因する確執関係から、的屋○○島△屋一家組□□幹部小○市○(当時三九年)を殺害すべく決意し、拳銃(昭和三九年押第一号の6)を携え、普通乗用車で、浜松市○○町○○○○番地飲食店安○○代方に乗りつけ、同店で飲酒中の右小○を誘い出し、同人に右拳銃を突きつけて、同人を右自動車に乗車させ、静岡県浜名郡○○町、同郡□□町、同郡△△村高塚等の地区を運転走行し、同夜一一時頃、右車中において、同人の頭部目がけて右拳銃を二回発射して命中させ、よつて同人を脳損傷によつて即死させ、

(二)  続いて、同夜一一時五〇分頃、静岡県浜名郡○○町○○○××××番地の二、宮○組資材器具倉庫において、宮○槇所有のスコップ一丁(時価約一〇〇円相当)を窃取し、

(三)  翌○□日午前○時頃より同○時三〇分頃までの間、静岡県浜名郡○○町○○○××××番地の七の埋立地において、前記(一)記載の犯行を隠蔽するため、前記小○市○の死体を同所の土中に埋没して遺棄し、

第二、被告人Yは、

(一)  Nと共謀のうえ、同年○月○○日午後八時二〇分頃、静岡県浜名郡○○町○○○××××番地の一先路上において、通行中の瀬○公○(当時二一年)に対し、些細なことに因縁をつけ、交々手拳で同人の顔面を殴打する等の暴行を加え、よつて同人に対し加療約五日間を要する顔面打撲の傷害を負わせ、

(二)  同年△月○○日午前○時三〇分頃、静岡県浜名郡浜名町□□町××××番地の一先路上において、友人の○田○一、○崎○吉が藤○義○外六名位に殴打されているのを見て憤慨し、

(1) Fと共謀のうえ、同所において、右藤○義○等に対し、交々竹棒をもつて殴打する等の暴行を加え、よつて藤○義○(当時一九年)に対し全治まで約一〇日間を要する左顔面挫傷、右下腕裂創等の、坂○日○(当時二二年)に対し全治まで約七日間を要する左腕擦過傷兼背部裂創の各傷害を負わせ、

(2) 引続き同所□□××××番地先路上において、前記藤○義○等の仲間である藤○和○(当時二二年)、山○均(当時二〇年)の両名を竹棒で殴打し、よつて右藤○に対し全治まで約七日間を要する右腹部打撲傷の、右山○に対し全治まで約七日間を要する左顔面挫傷兼左手掌裂創の各傷害を負わせたものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人両名の判示第一の所為中、(一)は刑法第六〇条、第一九九条に、(二)は同法第六〇条、第二三五条に、(三)は同法第六〇条、第一九〇条に、被告人Yの判示第二の所為中、(一)、(二)の(イ)は、いずれも同法第六〇条、第二〇四条、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に、(二)の(ロ)はいずれも刑法第二〇四条、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に該当するところ、被告人両名の判示第一の(一)の罪については、いずれも所定刑中無期懲役刑を選択し、被告人Yの判示第二の罪についてはいずれも所定刑中懲役刑を選択し、被告人Sの判示第一の各所為、被告人Yの判示第一、第二の各所為は、いずれも刑法第四五条前段の併合罪であるが、判示第一の(一)の罪についていずれも無期懲役刑を選択するので、同法第四六条第二項本文にしたがい他の刑を科さず、被告人両名をいずれも無期懲役に処し、主文第三項掲記の物は被告人両名が判示第一の(一)の殺人の用に供した物で、被告人S以外の者に属しないから、同法第一九条第一項第二号、第二項により、被告人Sに対し、これを没取し、主文第四項掲記の物は判示第一の(二)の窃盗の賍物であつて、被害者に還付すべき理由が明らかであるから、刑事訴訟法第三四七条第一項によりこれを被害者宮○槇に還付することとする。

(量刑について)

被告人等は、本件犯行の動機について、被告人Sはもと被害者の的屋小○市○の配下でパチンコの景品買い等に従事していた際、当時景品買いの元金を持ち逃げしたが、小○から被告人Sがかたぎになるということでその返済を猶予されていたところ、Sが博徒に身を投じたことから、小○がこれを怒り、Sを自宅に呼びつけその返済をせまり殴打する等の暴行を加え、かつSの所属する博徒○○家△△町一家の親分を「ドロガメ」と呼び捨てたこと等を怨みに思つていたところ、方々で「小○にヤキを入れられたのか」といわれ、更に「小○がお前のことを狙つている」と聞くに及び、従来からの遺恨がつのり、遂に配下の被告人Yを伴い小○を殺害するに至つたと述べている。しかしながら、小○から暴行を受けたのは既に半年以前のことであり、しかもこれについては既に結着がついており、暴行を受けたSの方で小○を狙うなら格別、小○の方から特にSを狙う理由を見出すことは出来ず、一旦結着のついたことが、突如として再燃するに至る理由も見出し得ず、かえつて犯行数日前、○○家の身内が一家の姐御に率いられ、蓼科方面に行つた時分頃が本件犯行計画発生の時期と見られ、拳銃の出所、被告人Sが各暴力団体によつて作られている遠州○○会の特攻隊副隊長である事実、犯行後、右姐御を中心とする○○家の少年Yの単独犯行に仕立てあげての偽装工作、親分が被告人等のために二〇〇万円の香典を支出している事実等をも合せ考慮するならば、判示殺人は全く単なる個人的な遺恨から生じたものでなく、暴力組織相互間の何等かの確執から生じたものであることは十分推測できる。しかもその犯行たるや、被害者を強制的に拉致し、無抵抗の被害者を長時間にわたつて死の恐怖にさらしたうえ殺害し、その死体を埋立地に埋没したまことに人間性の片鱗だに窺えぬ冷酷無残な犯行である。被告人等がその真の動機を隠し、拳銃の出所についても固く口を閉し、その弁解が逮捕当時より公判終結に至るまで種々変転し、ときには供述を拒否しているのも、被告人両名が将来永劫にこの種暴力団組織に帰属してその組織のために忠誠をつくすべく誓つていることとの証左に外ならない(本件犯罪の真相については結局判示の事項以外は厳格な証明がなく不明といわねばならない)。というのは、被告人等暴力団員は、組織のために犯罪を犯し、それにより刑務所に服役することをもつて一種の名誉と心得、出所後は組織内でより高い地位を与えられてその褒賞を受けることより将来の昇進を予期して進んで罪を犯しているからであり、そのためにその点の指令命令系統については全く口を閉して真相を語らないのである。しかも、この種暴力団は中世暗黒時代そのままに現在の下層社会を強力に支配し、しかしてその勢力は近時に及んでかえつてますます蔓延の状況を呈していることは周知の事実であり、まことに近代法治国家として他国に例を見ない恥辱の限りである。したがつて、もしもこの種暴力団同志の争闘を被害者もまた素人でないというような理由で軽く考えるならば、それはこの種暴力団を容認する甚しい謬見に通ずるのである。けだし、この種暴力団がいわゆる繩張り争いから互に争闘し殺傷事件を惹起するのは、一見すれば直接にその暴力団自体の勢力圏の防衛にすぎないように見えるのであるが、現実においては、暴力団内部の鉄の掟によつて真の命令者を隠しつつも、半ば公然たる兇行により善良な市民に対し暴力団の強固な組織と絶大な殺傷力を誇示して、広汎な社会層を不正な影響の下に置くことを目的としている甚だ悪質な目的を兼ねているからである。近時暴力団員の兇悪犯罪の検挙が激増し、しかも外部に出ないその種犯罪の暗数は非常なものと予想されているのであるから、司法の職にある者はこれ等兇悪犯人の撲滅をこそ第一の任務と心得ねばならないのである。そこで、この種犯罪風潮を一掃するには、被告人等をして暴力団に忠誠を誓うことが到底引き合わないことを認識させるより外はないのであり、したがつて従来の暴力団員が当然のことと予期するような五年や一〇年程度の拘禁では到底その目的を達することはできない。しかも、被告人Yは、少年とはいえ既に成人に間近く、心身共に成人に劣らぬ発育程度を示し、かつ犯行の詳細とその後の情況についても、公判においてさえも平然として言を左右にする等改悛の情が全く見られない。したがつて、これを軽く扱うが如きことがあれば、暴力団を志願してこの種の殺傷事件を敢行する少年が頻発することは必定である。また被告人両名いずれも既に犯罪歴を有するものである。よつて被告人両名に対しては無期懲役の重刑をもつて臨む必要がある。

(裁判長裁判官 永淵芳夫 裁判官 植村秀三 裁判官 古口満)

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